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調査No.000005 ・・・・(掲載 98.6.8)

○.らくがきの女

「弁護士からの紹介で来ました」と50歳位の眼鏡を掛け、背広姿のサラリーマン風の男性が相談に来た。
 言いにくそうにポツリポツリと話し始めた。
「前に付き合っていた女性が嫌がらせで会社の前の道路に落書きをする」
「私はその落書きを毎日早朝に、自転車で見回って消している」
「最初は白墨だったが最近は油性の物で書くので中々消えない」
「警察に相談したが証拠が無ければ駄目だと言われた」
「女性にお金を払うと申し出たが”馬鹿にするな”と突き返された」
 と悩みを打ち明けはじめた。
 弁護士も「決定的な証拠がないと、相手の女性を拘束できないから調査会社に証拠を掴んで貰いなさい」
 と当社に来た理由を語った。

 午後10時、夜間用のカメラを用意して、張込み車両2台と調査員4名で八王子の現地へ到着。
 調査員1名は女性の自宅を張り込み、動きがあれば連絡する準備を行う。
 残りの調査員3名は、事前情報で比較的落書きされそうな場所を2ヵ所に絞り、草むらに隠れて待機する。
 午前0時少し過ぎ、女性宅で張り込んでいた調査員から
「女が軽自動車に乗り込んで自宅を出ました・・・」
 と携帯電話で連絡が入った。
・・・待つこと約15分、女の軽自動車が信号を曲がって我々が待ち構えている目の前を右から左方向へゆっくりと通過する。
 下見している様子。
 200m程先まで行ってUターンして、こちらに向いて軽自動車のライトを消す。・・・警戒しているのか。
 我々は草むらの中でじっとして、女の軽自動車を睨み付ける。
 ライトがついて、軽自動車が走り出す。我々の前を猛スピードで通過して信号を曲がってゆく・・・。
 素早く調査員1名が車で尾行をする。残った調査員が、女の車の停まっていた路上へ駆け寄ると、路面に白色の文字で
「○○課の○○課長は女狂い」「○○課長は強姦魔」
 と書かれている。
「しまった!・・・・・」と路面の文字を水と束子で消そうとするが中々消えない。一筋縄では行かない相手である。
 こうして初日の調査は見事に女に裏をかかれて完敗となった・・。

 翌日は調査員を6名に増やし、張込み個所を多くして万全の態勢で待ち構えた。
 予想どおり午前0時過ぎに女は軽自動車で動き出した。
 会社の駐車場にゆっくりと近づき車の中から敷地の中を覗く。
 建物の影に隠れた調査員と無線で連絡を取りながらカメラのシャッターチャンスを待つ・・・。

・・・・・今日の事前の打ち合わせで依頼者とも連絡を取り、
「通常のカメラ・ビデオ類での撮影は暗すぎて無理、暗視カメラでは本人の特定が難しい・・・」
 ので、女の軽自動車のライトが消えたら調査員『全員』のカメラでフラッシュ撮影をする強行策を予定していた・・・・・。

 一旦会社の駐車場を通り過ぎた女の軽自動車は再び戻ってきて敷地の中に素早く入り込む。・・・ライトが消えた・・・。
 調査員全員に『今だ!』と連絡する。草むらから、建物の影から、隠れていた調査員が車を取り囲み、
 駐車場の路面にしゃがみこんでいる女にパシャ、パシャとフラッシュ撮影を行った・・・。
 驚いた女は軽自動車に乗り込み、急発進して逃げるように走り去る。
 駐車場の路面には「○○は女の敵だ・・・」と白色の文字で書かれている。
 路面も証拠の記録として写真に収め、今回の調査を無事終了した・・・・・。

 後日弁護士から○○警察署へ女への告訴状が出される。
 その後、今回の調査報告書の説明で○○警察署へ訪れる。
 担当の刑事に調査方法と調査経過を説明する・・・。
 報告書を読んでいた刑事の手が止まる。フラッシュに浮かび上がった女の写真を見てポツリと
 「女は恐い・・・・・」

※実際の調査を題材にしました。
 但し、地域名・団体名・氏名等は変えてあります。